出展者のご紹介/via wwalnuts社について


さまざまな出展者がブースごとに本の展示販売をする「かまくらブックフェスタ」では、それぞれの出展社(者)がブース前に立ち、販売を行います。本の販売をとおして、出版社や書店、インディペンデントな出版活動や創作活動をおこなう人々と、それらの受け取り手である読者とが、互いに交流できる場になるといいな、と考えています。


さて、このブログでは各出展者についてくわしく紹介していきたいと思います。まずは、詩人の平出隆さんによる出版プロジェクトvia wwalnuts社(叢書)について。

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私が最初にvia wwalnuts叢書の存在を知ったのは、「朝日新聞」に掲載された記事がきっかけでした(記事はこちら)。詩人・平出隆さんによる「極小出版」の試み。平出さんが自身の著書や詩集などの装幀をてがけているということは以前から知っていましたが、著作・装丁・出版のすべてをてがけたvia wwalnuts叢書の試みにはとても驚かされました。何より、読者に直接届けられるというその販売方法が斬新でした。読者が直接本を注文すると、ある日、via wwalnuts社の「本」が郵便受けに届けられます。一方で、書籍に必要なISBNコードも取得しており、amazonでも購入することができ、一部の書店でも販売されているとのこと。

さらに実際に叢書を手にしてまず感じたのは、叢書の美しさでした。表紙代わりの真っ白な封筒には、書名と著者名の他、切手と消印、そして自分の宛名が記され、なかには8ページの「本」が収められています。紙の質感から「綴じないで綴じた」というその造本まで、写真では伝わらないくらい繊細な美しさで、最初に届いたときはドキドキしながらページをめくりました。こんなに美しい「本」が、平出さんの手によって家庭用インクジェットプリンターで作られているそうです。たった8ページの冊子のようでもあり、平出さんから送られた手紙のようでもあります。

詩集は昔から自費出版の文化が根強く残っています。また本の販売方法についても、小さな出版社などは直販(取次を通さずに出版社からお店へ納品する販売方法)を行うこともありますし、読者からの注文を受けて直接本を送ることもあります。ただ、via wwalnuts叢書の試みは、従来の自費出版や出版社の販売方法とはまた違う形式に感じます。それは、著作、装丁、出版までを平出さん(via wwalnuts社)が手がけていること、そして「手紙」というかたちで読者に届けられるという斬新なアイディアによるものだと思います。小出版社、一人出版社、リトルプレスという、「小さな出版」というかたちが、昨今注目されていますが、「読者40人を相手にした出版」だというこの「極小出版」、via wwalnuts叢書の試みは、これからの出版のあり方を考えるうえで、とても重要な問いを投げかけているのではないでしょうか。

かまくらブックフェスタでは、via wwalnuts叢書01〜08、平出隆詩集『雷滴』などを展示販売する予定です。こんなに美しい「本」を手がけるくらいですから、その展示方法もかなりおもしろいものになると思います。また24日には、平出隆さんをゲストにお招きして、「本と出版のこれから via wwalnuts叢書の試み」というトークイベントを行います。数々の本を出版し、装丁を手がけた平出さんは、本のあり方、出版の未来をどう考えているのか。via wwalnuts叢書という形式に辿りついた経緯などを、お話しいただく予定です。定員30名ですので、ぜひお早めにご予約ください(予約は info@minatonohito.jp(月永)まで)。


【via wwalnuts叢書既刊分】
01 雷滴 その拾遺
02 澁澤龍彦 夢のかたちⅠ
03 澁澤龍彦 夢のかたちⅡ
04 精神の交通のあたらしい場所
05 雷滴 その放下
06 門司ン子版 ボール遊びの詩学
07 言語としての河原温
08 螺旋・生・時間――河野道代『SPIRA MIRABILIS』論
平出隆詩集『雷滴』

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この「本」は私の、日本の出版文化に対する絶望と希望の産物となっています。「背水の陣」ということばがありますが、私はいわば「背水の本」としてこの媒体をデザイン造本し、流通形態としても細部にわたって設計したのです。
ここで申し上げたいのは、このようなものもweb社会の深化との連携によって可能になっていることです。通信や流通の革命によって、電子書籍ではなく、反対に旧来の本が可能性を帯びたということです。ささやかな形態ですが、このような「本」は私たちの「精神の交通」の刷新の可能性をあらわしているように思えてなりません。


「精神と交通のあたらしい場所」via wwanluts叢書04 平出隆



郵送での注文を申し込むと、via wwalnuts叢書が封書として届きます(実際は宛名シールに読者の住所・名前も記載されています)。封書には「TH」という平出さん直筆のサインも記されています。



封筒が本の表紙代わりとなっています。ISBNコードが印刷されたシールをそっと剥がし、「本」を開きます。



「綴じないで綴じた」という8ページの「本」。