特別展示/ヒロイヨミ社 presents 「活版とことば」展について





*「ヒロイヨミ」珈琲号
珈琲にまつわるさまざまな文学・ことばを掲載



カフェスペースで行う活版印刷の特別展示〈ヒロイヨミ社 presents「活版とことば」展〉についてご紹介します。「活版とことば」をテーマにした、さまざまな作家さんによる活版印刷の制作物の展示。本を作るうえで大切な文字と印刷についても知るために、〈活版印刷〉の魅力をご紹介します。

ヒロイヨミ社は、ブックデザイナーとしても活動する山元伸子さんが主宰し、「春、雨、雪、島、珈琲、木」などをテーマにしたアンソロジー冊子を、活版印刷や孔版印刷で制作してきました。「活版とことば」展では、ヒロイヨミ社の制作物の他、「こうばしい本の匂いを感じさせる」作り手の方々によるカードや栞なども紹介します。印刷や紙、造形にもこだわった、すてきな作品が並ぶ予定です。

本の出版においては一般的には利用されなくなった〈活版印刷〉という印刷技術ですが、小さな規模でみれば、ここ最近、活版印刷を使ったさまざまな活動はむしろ活発になってきています。活版に興味のある人はもちろん、「活版印刷って何?」と疑問に思ってる人も、それぞれの作品を見ながら、活版印刷の魅力を知ってもらいたいと思います。


★参加者(各コメントはヒロイヨミ社さんからいただきました)
ヒロイヨミ社(山元伸子)
「春、雨、雪、島、珈琲、木」などをテーマにしたアンソロジー冊子など、活版印刷や孔版印刷で制作した本を展示販売。

赤井都
豆本作家として活躍されている赤井さん。『豆本づくりのいろは』『そのまま豆本』(河出書房新社)の著書もあります。今回出していただくのは、『夏から春へ』という和綴じの本です。石州春雨紙、土佐土紙などのめずらしい風合いの和紙が使われていて、本をさわる、めくる悦びを存分に味わえます。山猫やさんの木版もとても愛らしく、ページごとにちがう色で刷られているという、贅沢な一冊です。本と季節と、だれかのことを想いながら、ゆっくりと読んでみてください。

ananas press
製本作家・都筑晶絵とヒロイヨミ社の山元伸子によるユニット。俳句、短歌、詩、小説、随筆など、さまざまなジャンルの文芸作品に描かれた「水」と「空」をフラグメントにして瓶に入れた『水の空』を出品します。言葉と言葉をつないだり並べたり重ねたりずらしたり、気の向くままに位置を変えてみると、思いがけない風景が見えてくるかもしれません。

大崎善治
『Imakokoro tarot deck』(カードと冊子)、点字のカード3種類、そして新しい作品『Futatsu no Kimi』を出していただきました。「レタープレスキット」という機械を使ってエンボスを施した点字のカードは、目で読む言葉と手で読む言葉が、一枚の紙の上に共存してやわらかに響き合っています。とりわけ白の凹凸、その陰影に心惹かれます。新作『Futatsu no Kimi』は、昔から好きな歌の歌詞を、自ら印刷されたもの。歌の内容だけでなく、文字のかすれや刷りムラもまた、人の声にも似たあたたかな雰囲気を醸しています。

二月空
活字カードには、「ミ スミ ソウ」「コップをもってくる。」「保線」「on the bridge」「K P」などなど、言葉が二つ三つ刷られています。それらをじっと見つめていると、意味が溶けだしてきて頭の中がいいかんじにもやもやしますが、紙面はあくまで凛として美しいのです。「詩集の1ページを眺めるように手に取ってもらえたら」と作りつづけられているカードは、全部で18種類。紙の色も、白、グレー、臙脂色、黄土色、暗緑色などバリエーションがあり、組み合わせてみるとまたちがった世界が立ちあらわれます。

北極書店
ツバメ活版堂の知り合いの北極書店さん。お店はないそうで、訪問販売のみだそうです。謎の部分が多いのですが、そこがまた魅力のひとつ。今回は、読書の最中、気になった言葉をメモしておくための「かきとめて栞」や書皮(カバー)、喫茶部のコースターなどを出品していただきました。それらの絵も文字も紙もどこか懐かしい雰囲気を漂わせ、北極書店に足しげく通った遠い日々がかつてあったような気がしてきます。

本の島絵はがき部
かつて中島敦が赴任先の南洋の島から幼い子どもに書き送った手紙の言葉をもとに、新たに絵を加えて、絵はがきセット『島からの手紙』を作りました。文字は活版印刷、絵はプリントゴッコです。本の島に関してはこちらのブログとツイッターをご参照ください。絵はがき部は、そこから派生したゆるやかな集まりです。主な活動は絵はがきをやりとりすること。部長が描く海や雲や動植物は、のびのびとたのしそうで、ちょっとへん。島への想いがつのります。

文京れんげ社
大木陽子さんと宇佐美智子さんによるユニット文京れんげ社は、今回はじめて活版印刷に取り組まれました。「食べる×言葉」をテーマにした、できたての湯気が見えそうなノートやカードたち。「舟のような月を見た日のピザ」「白い猫と歩いた日のおやつ」など、たのしそうなおいしそうな言葉がならんでいます。レシピといっしょにお楽しみください。だれかといっしょに(あるいは一人で)、ものを食べるなごやかで幸せな時間が恋しくなるようなものばかりです。 

山田理加
果物、スパイス、鳥、花のカードを展示販売します。雷鳥、小瑠璃、石叩、玄鳥、小啄木鳥、など、ただそれらの名前のみが、漢語で整然と、標本箱に収められたものたちのように並んでいます。日本語と活字の美しさを、あらためて伝えてくれるカードです。年賀状として作られた「叔母と正月」では、ただいくつかの言葉が並んでいるだけなのに、まるで一編の小説を読んだような、静かで深い余韻が味わえます。

ユニバーサル・レタープレス
台東区蔵前の小さなレタープレス工房、主宰するアートディレクターの関宙明さん(ミスター・ユニバース)は、「港の人」で刊行されている活版印刷の詩集や歌集の装幀も手がけておられます。今回お預かりしたのは、『やまなし』『雪渡り』『風の又三郎』など、宮沢賢治の童話のことばを印刷したもの5種類。作品から解き放たれて、色とりどり、思い思いの衣をまとった言葉たちが、紙の上でリズミカルに踊っています。「キックキックトントンキックキックトントン」(『雪渡り』)。つい身体に声に、のせてみたくなります。


*なお、トークイベントの時間帯(23日15時半〜18時/24日15時〜17時半)はカフェスペースは貸し切り状態となります。入場者の方以外は展示はご覧いただけませんので、ご注意ください。


ヒロイヨミ社のブログ「ヒロイヨミ通信2」