出展者ご紹介:里山社+編集室屋上

かまくらブックフェスタ」、「里山社」「編集室屋上」がご一緒に、今年初めて参加くださることになりました。里山社は2013年、編集室屋上は2011年にスタート、どちらも、女性がひとりで運営なさっています。本当に出したいものを、自分の手で本にして、求める人のもとへしっかりと届ける、という姿勢も共通しています。どちらも、それぞれの考えと感性のしみこんだ、個性ゆたかな本をつくっておられます。
里山社の清田麻衣子さん、編集室屋上の林さやかさんに、販売する本のなかから2点ずつ、紹介いただきました。

井田真木子著作撰集』第1集&第2集(里山社)
撰集という形でおそるおそる復刊したのは2014年3月。しかし3刷となる好評を得て、その後第2集を15年7月に出しました。井田真木子は、ひとくちで「ノンフィクション作家」と紹介するには、あまりにもはみ出した才能と規格外の自我を抱えた作家でした。詩人として作家活動をスタートさせた井田真木子は、独特のフェミニズム観を持ち、80年代という狂騒の時代、雑誌ライターとして息を潜め、90年代、日本の翳りをいち早く感じ取り、才能を開花させました。そのテーマは女子プロレス、同性愛、中国残留孤児二世、援助交際、80年代を生きた人々と多彩でありながら、視線はつねに、当時あまりフォーカスされることのなかった周縁の人々に注がれていました。破滅的で、ややこしく、嘘つきで、しかしとても魅力と才能に満ちた井田真木子。作家としても女性としても規格外の彼女は、それゆえに、書くことに全身で体当たりすることで、とても「切実な」本を生み出しました。その本は、刊行から20年近くの日が経とうとしている現在もなお、切実に欲する人が絶えません。日本という国固有の弱点を突く冴えた視点、また普遍的な疎外感、孤独と向き合う対象とのやりとりなど、井田作品は、時代を経ても褪せぬ魅力に満ちています。

『日常と不在を見つめて ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学』(里山社)
90〜00年代、《日常》と《不在》にこだわり、潜む闇をじっくりとあぶり出したドキュメンタリー映画作家、佐藤真。公害問題と日常、障害とは、アートとは何か、グローバリゼーションに抗うこと、そして映像のもつ根源的な力とは……。不穏な時代のうねりを前に「世の中を批判的に見る目を持て」と映像と文章で私たちの眠った感覚を刺激しました。佐藤が世を去って9年。影響を受けた人からともに歩んできた人まで、佐藤真に惹きつけられた32人の書き下ろし原稿とインタビュー、そして佐藤真の単行本未収録原稿を含む傑作選を収録。映像作家であり、90年代後半の類稀な思想家とも言うべき佐藤真の哲学を掘り下げ、今を「批判的に」見つめ、私たちの確かな未来への足場を探ります。


かまくらブックフェスタ」と同時期、10/8〜14まで関内の横浜シネマリンにてこの単行本の発刊を記念した特集上映「佐藤真の不在を見つめて」を開催予定とのこと。貴重な機会だと思いますので、こちらもぜひご注目ください。

二階堂和美 しゃべったり 書いたり』(編集室屋上)
編集室屋上をご存知ない方も多いと思うので、まずは最初の一冊目から。
歌手である二階堂和美さんは、地元・広島で僧侶としても活動をしています。当時、それまでの創作から少し変化をして、歌をつくること、文章を書くこと、インタビューにこたえることなど、ご自身の考えをストレートに出されるようになっていました。そのときの二階堂さんが詰まったアルバム『にじみ』に合わせるような形で、主に過去の原稿とインタビューを集めて編集したのがこの本です。2011年のことでした。
わたしは「自分で出版をやってみたい」という思いと、「いつか二階堂さんの本を作ってみたい」という思いがそれぞれありましたが、さあこれから出版というものをどうやって始めようか、という駆け出しも駆け出しの状況と、「いつか」と思っていた二階堂さんの本とは自分の出版活動が結びつかずにいました。
それを、当時シアターイワトをバリバリ運営されていた平野公子さんが「二階堂さんの本を出せばいい」と言ってくれて、「あれ、そんなことをしてもいいのか。わたしがしてもいいのか」と思って、二階堂さんにしつこいくらいに手紙を書いたり話をしたりして追いかけ回し、実現したのでした。

『に・褒められたくて 版画家・ながさわたかひろの挑戦』(編集室屋上)
版画家のながさわたかひろさんが、自分の好きな人にアポなしで突撃をし、「あなたの絵を描かせてください」と直談判。そこから描き上げた絵を本人に渡して、サインとコメントをもらって完成、という、作品のクオリティもさることながらその過程すべてが作品になるながさわさんの連作「に・褒められたくて」。数年にわたってつくられたこの作品をまとめた単行本です。
編集室屋上を始めてから3年ほど経って出産を経験し、産休から育休と、「ひとり出版社」の屋上は長期休みにせざるを得ませんでした。
そして、いつまでも本を出さないでいるわけにもいかないと思ったときに、どうしてもわたしが出さなくてはいけない本を今こそつくらなくては、と思って本格的に動き始めたのが『に・褒められたくて』です。
ながさわさんの何か節目であるわけでもなく、連作が一段落したわけでもなく、ただ、「どうしてもこの本を出したい!」という気持だけで走ったようなもの。でもだからこそ、ながさわさんの作品の面白さ、素晴らしさを純粋に詰め込むことができたと思っています。