トークイベント「本の美しさとはなにか」

第1回目のブックフェスタから続けて出展くださっている「via wwalnuts社」は、詩人、平出隆さんの出版プロジェクト。via wwalnuts叢書は、手紙の形で届く「書物」。ブックフェスタ会場で申し込みすると、平出さんのイニシャルサイン入りで、後日手元に届きます。切手や消印、郵便物として運ばれる間の汚れも含めての、美しい書物です。
via wwalnuts社 http://viawwalnuts.jp

そしてまた、第1回目から平出隆さんにはトークイベントの出演をお願いしており、毎年楽しみに来ていただいているお客様もいらっしゃるようです。今年の対談のお相手は、オルタナ編集者の郡淳一郎さんです。
郡淳一郎さんは、雑誌『ユリイカ』や多くの単行本の編集を手がけられてきていらっしゃいますが、特筆すべきお仕事として、雑誌『アイデア』での3回にわたる特集「日本オルタナ出版史」があります。

「日本オルタナ出版史」は、正確にいうと、敗戦までをとりあげる「日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本」、戦後の「日本オルタナ文学誌 1945-1969 戦後・活字・韻律」「日本オルタナ精神譜 1970-1994 否定形のブックデザイン」の3部作になっていて、合わせて1500点もの書物が写真入りで紹介されています。それぞれ独自の美しさをもつ書物がこれほどの点数集められたということ自体がものすごいことなのですが、それらが、ただカタログ的に羅列されているのではなく、「出版とは何か」「書物の美しさとは何か」という問いかけとして精密に編まれているのです。詳細なデータ、活字や印刷製本にかんする言及、こっそり忍ばせてある数々の編集的仕掛け……ちょっとやそっとでは咀嚼しきれない、壮大で複雑怪奇、そして過激なプロジェクトです。
3部作の最初にあたる「日本オルタナ出版史」の冒頭に置かれた郡さんの文章「オルタナ出版史のためのプログラム」(2012年発表)から引用します。

わたしたちはこれから、1923年9月1日の関東大震災から、1945年8月15日の日本敗戦までにおける「もう一つ」の出版史を見てゆこうとする。22年間のタイムラインの起点と終点、そして2012年現在という三つの夏があり、二つ目の広島・長崎の夏は昨年の福島の春とも二重写しになる。前の二つの夏において近代日本出版史は2回、強制終了・再起動されたが、そこには現在の出版産業崩壊にあたってわたしたちが取り得る行動の可能性が網羅されている。
(中略)
制作にあたって、たとえば、次のことを心掛けた。
・しゃべり言葉の延長にあって所詮、コミュニケーションの道具に過ぎない散文でなく、叫び、祈りの末裔としての韻文を尊んだ(小説本を足蹴にし、詩集を大切にした)。
・書物における内容と形態の有機的な結合に注目するよう努めた。人間の心と体が、けして切り離せないように。
・書影は、カバー、函、帯などの外装を外して撮影することを基本とした。服飾を剥ぎ取って、一冊一冊のボディ(本体、身体、体躯)が取りうる姿態をつぶさに眺めようとした。
(後略)

たとえば「現在の出版産業崩壊」という一語のなかに、郡さんの問題意識がはっきりと出ています。郡さんの本への愛情、叫び、祈りとして、この言葉を受け取る人も、もちろん大勢いると思います。
3部作の最初に取り上げられているのは宮武外骨、そして、最後が、平出隆さんです。つまり、郡さんは、平出隆さんのお仕事を、無数の人々がつないできた「出版の精神」というバトンを受け取って走り続けている、最後のランナーととらえているようです。

当日の会場では、オルタナ出版史で紹介された書物からの48点、また、平出さんが手がけられた書物の画像を投影します。平出さんのこれまでのお仕事を深く愛しておられる郡さんからの鋭い問いかけによって初めて明らかになる秘密や新しく見出される事実も飛び出しそうです。
また、来場者のかたには、他では入手できない組継本による冊子「仮名手本オルタナ出版史」が配布されます。

トークは11日14時半から(開場は14時)。入場料1000円。会場はブックフェスタ会場から徒歩30秒の由比ヶ浜公会堂です。
残席が残り少なくなっていますので、ご予約はお早めに港の人へご連絡ください。たらば書房、ブックスモブロ、MODERATO ROASTING COFFEEでチケット販売もおこなっています。